親愛なるものへ  はとぽっぽさま

 

親愛なるものへ

はとぽっぽさま


 

 何度あなたにこの手紙を出した事か。でもあなたは読まずに破り捨てるのでしょうね。
私達が別れた時もそうだった、あなたは故郷を解放する為に残ると言っていた。
そして私を卑怯者と蔑みもしたわ…故郷を捨てる裏切り者だとも…。
あの星はもう自力で生きていけなくなった、表向きの繁栄はあくまで飾り、昔の栄華は完全に失われた。
そう…私達は…負けたのよ。
 
 私には理想を求めるあなたの気持ちもよく判るわ。
 
 でもその前に現実を受け入れどう生き残るかを考える方が大事じゃないかしら?
今、誇りを盾に刃向ってどうなるというの?あの星に、あの皇帝にさえ忠誠を誓えば私達は生き残れる!
するとあなたは言うのよね…「『私が』陰で泣く人達を増やしている」って
私はその事を弁解する気は無いわ。事実でしょうね。でも、それじゃあなたはどうしろと言うの?
私が手を緩めさえすれば嘆く同胞が減るとでも?この星を見逃すというの?
あなたはあの星を出た事が無い。だからきっと知らないのでしょうね…。
ここには私と同じ志を持った人達が大勢いる、自分の大切なモノを守る為なら魂さえ差し出す人もいるわ。
 
 ねぇ…負けた私達の星が今も輝いているのは何故だと思う?
 
 従順でさえあれば普通の暮らしができるのは何故だか考えた事はある?
もし故郷があの星と全面対決する道を選んでいたら…赤い不毛の大地が広がっていたわね。
幾らあなたが私を嫌っていてもこれだけは認めてくれるでしょう?
でもね、『あの』皇帝は自分に従わない者を何時までも残しておく程甘くは無いわ。
 
 わかる?
 
 あなたがそこで戦争ごっこ(あえて言わせてもらうわ)が出来るのも、批判ばかり口にしていられるのも私達の存在あっての事よ!
 
 あなたの故郷を守りたいという気持ちが嘘じゃないとは思う。でもそれじゃ私の気持ちはどうだというの?
 
 いいえ、あなたよりも上ね。
 
 だって少なくても私は故郷を戦火に巻き込んでいない。巻き込まれないようにしている。
 
 そう…
 でも、あなた達はどう?
 
 理想の為に故郷を滅ぼす気? あなたの考えはあの星に暮らすすべての命より重いとでもいうの?!
 
 今、ギシン星では第四次作戦の準備に入っているわ、もちろん私達の星も例外じゃない。
この作戦が始まれば、あなたや戦争ごっこの仲間達は確実に息の根を止められるわ。
そうね…私が行く事になるかもね……だからこれが最後の忠告だと思って。
今すぐ銃を捨てなさい! まだ間に合う! お願い!ルイっ!! 

 

 

 

 すでに一般市民の通信記録さえ監視下に置かれているこの状況で、この手紙が無事に第8惑星の妹の元に届いたかどうかは定かでは無い。
ただこれより1ヶ月後、ギシン星軍部で会議が開かれ第四次作戦は延期となった。
 
 更に1週間後、彼女は一つの命令を受けた。
 
 故郷からも遠く離れた辺境の恒星系において一組の兄弟の戦いを監視する為である。
彼等の戦いを見守る彼女の胸にどのような想いが走ったのか…それは誰も知らない。


テーマは「手紙」。
はとぽっぽさんが執筆されています
「誕生石3」の裏リンク話になっているそうです。
新刊を心待ちにしております者にとっては、
待つ楽しみが増えて、う〜れし〜。
ありがとうございましたー。
 
2002.3.4 きり

 

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