ケリ ゆみ58さま

 

ケリ

ゆみ58さま


  

「よお、タケル。出発前にいちおうケリつけとこうぜ。」
 
 一日の勤務を終えたタケルがその声に振り返ると、伊集院ナオトがウインクをしていた。
 
「よし。望むところだ。」
 
 ナオトが「ケリをつける」というのはいつも射撃の腕前である。
 クラッシャー隊射撃担当の二人は、地球防衛軍の中でも特に頭抜けた射撃技術を保持していた。
 二人の成績は訓練生時代から優劣つけがたく、お互いを唯一の好敵手と認めていた。
 そのため、彼らはしばしば暇を見つけては二人で射撃訓練場に足を向けていたのである。
 3日後にせまるギシン星への親善使節としての出発を控え、その準備に追われ少し疲れ気味のタケルであったが、ナオトのこの誘いにその疲れもどこかへ飛んでいった。
 
 
 

 普段クラッシャー隊員はレーザーガンを携行していたが、この訓練場ではあらゆる銃器が取りそろえられていた。
 タケルとナオトがいつも勝負をつけるために選ぶのは、このレーザーガンではなく、アナログな火薬式の拳銃だった。
 銃声といい、手応えといい、こちらのほうが勝負の雰囲気がでるというのが二人の共通意見であった。
 
 ミカなどはそんな二人のことを「子供っぽいのよね。テレビの見過ぎよ。いつも使ってるので勝負すればいいじゃない。」などと、いつもあきれていうのだが。
 
 6枚の移動ターゲットをレボルバーに装填された6発の弾丸でいかに早く正確に打ち抜くかの勝負。それを何セットか行った後、さらに打ち抜いたターゲットをお互いの目で確認する。
 これは、二人の射撃があまりに正確なため、「的中」したかどうかだけの自動識別の判断だけでは足りないためである。
 その勝負にケリをつける、というのは二人にとって訓練というより確かに趣味の域にあるようなものであったし、完全防音の射撃場は若い同年代の二人がいろいろな話をするのにも好都合であった。
 
「で、タケル。」
「なんだ?」
 
 二人はレーンで銃をかまえながら、会話を始めた。
 これもいつものことである。
 
「ロゼとイイコトしてたんだってな。」
 ターゲットが現れ、銃声が響く。二つの銃声のうち、ひとつは2分の1秒近く遅れていた。
 
「・・・なんでしってるんだよ。」
 
 激しい動揺の後、あの朝のナミダとの会話に思い当たったタケルは、隠しても無駄だという結論に達したようだ。
 
「ふん。ごちそうさまってとこだな。」
 
 2番目、3番目のターゲットが現れたが、これらは瞬時に完璧に重なった二つの銃声と共に打ち抜かれてゆく。
 その銃声の余韻だけが響き、少し気まずい雰囲気がただよう。
 
「ま、なんだな。うまくいったんだろ。」
 
 ナオトはわざと皮肉っぽく問いかける。
 
「ああ。」
 
 予想に反して、短いながらもはっきりと答えるタケルに、ナオトは少し驚いた。
 4番目のターゲットをかろうじて落ち着いてとらえたナオトはさらに反撃に出る。
 
「おまえ、そういうケイケンはまだとかいってたよな。見かけによらず研究熱心だったんだな。予習バッチシってとこか。」
「違うっ!」
 
 タケルは思わず大きな声で反論したが、次のターゲットに向けて意識を集中させる。
 5番目のターゲットを二人とも難なく射抜く。
 
「じゃあ、教わったのか?ロゼに。」
 
 決定打とばかりに、いやらしさを増した声色で聞いてやった。これでこの勝負はオレの勝ちだな、とナオトがにやりとしかけたのもつかの間。
 
「いや。マーグが教えてくれた。」
「へっ?」
 
 ナオトの奇声とともに最後のターゲットが立ち上がった。
 ナオトがどうにか放った銃弾は、隣レーンのタケルのターゲットに命中した。
 
「危ないじゃないか、ナオト。」
「アブナイのはどっちだよ」
 
 目を白黒させながら怒鳴るナオト。
 タケルは射撃用の防護サングラスをはずしながら問いかけた。
 
「やっぱりそうかな?」
「やっぱりっていうか・・・えっ?・・・いったいどういう状況だったんだ?」
 
 
 

 あの夜の状況を訥々と言葉を選びながら話すタケル。
 ナオトは自分がどれだけ超能力者の感覚を理解できているのか自信はなかったが、タケルのいわんとするところはだいたい把握した。
 
「しかし、そりゃあ、照れるっていうかなんていうか。なんていうんだろうな。」
 
 咳払いをひとつしながらナオトは続けた。
 
「それで、その、嫉妬・・・とかは感じなかったのかよ。」
 
 こんな時のナオトの優しい口調こそ、彼が見かけよりずっと情に厚い人間であることを表している、とタケルは思う。
 
「そこが自分でも後から不思議だったんだけど全然嫉妬はなかったな。」
「ふうん。」
「逆に、マーグとロゼが支え合ってくれてたんだと知ってうれしかった。」
 
 ナオトは銃器の片づけをしながら無言で頷く。
 
「俺は、いつも心のどこかで、マーグをおいて俺だけが幸せになってるんじゃないかって、マーグに申し訳なく思っていた。ロゼのことを好きになってから、その思いはさらに重く俺の心にのしかかっていたよ。」
「それは違うだろ。」
「ああ、違った。それがやっと分かったのさ。三人で混ざり合って初めて確信したんだ。」
 
 ここだけ聞いたらタケルのセリフとはおもえんよな、とナオトはどきりとしながら、この射撃場の防音効果をひどく頼もしく思っていた。
 アキラなんぞにきかれりゃ、あいつはとんでもないこといいふらすからな、と。
 そんなナオトの心配をよそに、タケルはまさにふっきれたという感じで爽やかな笑顔を浮かべていた。
 
「よかったな。おめでとうよ、タケル。」
 
 ナオトはタケルに手を差し出した。
 しばし固く握手した後、二人はターゲットの確認をはじめた。
 
「おいおい、明神君。一発目外してますぜ。これが地球レベルか、とギシン星のやつらに笑われるぜ。」
「そういうおまえこそ、他人のターゲット撃っておいて。コスモクラッシャーも俺がいなきゃやっぱだめじゃないのか。」
 
 二人の大きな屈託のない笑い声が響く。
 
「ま、今回もおあいこってこったな。またおまえが地球に帰ってきたらいつでも相手をしてやるぜ。」
「ああ。首を洗ってまっとけよ。」
 
 二人は互いの肩に腕を回して射撃場から出たところで、ミカとばったり会った。
 
「またやってたの。まったくしょうがないわね、この忙しいのに。」
「ま、女子供には分からない、男のロマンってやつだな、タケル。」
「そういうこと。女子供には分からない。」
「まあ!タケルまで!」
「逃げるぞ、タケル!」
「おう!」
 
 バトルキャンプの廊下を、大声で笑いながら猛然とダッシュする彼らを見た者は、数十人を下らなかった。
 
 
 
 
 


「everything」から零れ落ちて生まれたお話をくださいました。
男の子同士の会話シーンて、なんか好きです。
ツボだったのは小道具がレーザーガンじゃなくて
リボルバーってところ。実弾実弾。
ロマンですな。

ゆみさん、前作に引き続き、ありがとうございましした。
 
2002.6.6 きり

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