幸福の王子様
はとぽっぽさま


 

 町(ズーロピア市)の上に高く柱がそびえ、その上に幸福の王子の像が立っていました。
 王子の像は全体を薄い純金で覆われ、目は二つの輝くサファイアで、王子の剣のつかには大きな赤いルビーが光っていました。
 王子は皆の自慢でした。

「風見鶏と同じくらいに美しい」と、芸術的なセンスがあるという評判を得たがっている一人の市会議員(ワール)が言いました。
「もっとも風見鶏ほど便利じゃないがね」と付け加えて言いました。
これは夢想家だと思われないように心配したからです。実際には彼は夢想家なんかじゃなかったのですが。
 
「どうしてあの幸福の王子みたいにちゃんとできないの」
 
 月(のようなクリスタルのペンダント)が欲しいと泣いている幼い男の子(ナミダ)に、賢明なお母さんが聞きました。
 
「幸福の王子は決して何かを欲しがって泣いたりしないのよ」
 
 
 
「この世界の中にも、本当に幸福な人がいる、というのは嬉しい事だ」
 
 失望(失恋?)した男(大塚)が、この素晴らしい像を見つめてつぶやきました。
 
「天使のようだね」と、明るい赤いマントときれいな白い袖無しドレスを着た養育院(第八惑星)の子供達(ルイ達)が聖堂から出てきて言いました。
「どうしてそのような事が判るのかね」と数学教師(ケンジ)が言いました。
 
「天使など見た事がないのに」
 
「ああ、でも見た事はありますよ。夢の中で」と子供は答えました。
 すると数学教師(ケンジ)は眉をひそめてとても厳しい顔つきをしました。
 というのは彼は子供が夢を見る事はよろしくないと考えていたからです。

 

 

 

 

 

 ある晩、その町(ズーロピア市)に小さなツバメ(宇宙鳥)が飛んできました。
 友達らは既に六週間前にエジプト(地球)に出発していましたが、そのツバメ(マーズ)は残っていました。彼は最高にきれいな葦(彼女)に恋をしていたからです。
 ツバメ(マーズ)が彼女に出逢ったのは春のはじめ、大きくて黄色い蛾(流れ星)を追って、川(天の川)の下流へ向かって飛んでいた時でした。
 葦(フローレ)のすらっとした腰があまりにも魅力的だったので、ツバメ(マーズ)は立ち止まって彼女に話しかけたのです。
 
「君を好きになってもいいかい」とツバメ(マーズ)は言いました。
 ツバメは単刀直入に話すのが好きでした。葦(フローレ)は深く頷きました。
 そこでツバメ(マーズ)は、(光る)翼で水(星々)に触れながら彼女の周りをぐるぐると回り、銀色のさざ波を立てました。
 これはツバメ(マーズ)からのラブコールで、それは夏中続きました。
 
「彼女(フローレ)はおかしな恋人だね」と他のツバメ(宇宙鳥)達がぺちゃぺちゃ言いました。
「財産はないくせに、親戚は多過ぎるときてる」
 
 実際、その川(星域)は葦(マイナス超能力者)でいっぱいだったのです。
 やがて、秋が来るとそのツバメ(宇宙鳥)達もみんな飛んで行ってしまいました。
 みんなが行ってしまうと、ツバメ(マーズ)は寂しくなり、自分の恋人にも飽き始めました。
 
「彼女(フローレ)は(自分の事を)何も話してくれないしな」ツバメ(マーズ)は言いました。
「それに浮気っぽいんじゃないかと思うんだ。だって彼女はいつも風(のような男)といちゃついてるんだから」
 
 確かに、風(ガッシュ)が吹くといつも葦(フローレ)は最高に優美なおじぎをするのでした。
「彼女が家庭的なのは認めるけれど」とツバメ(マーズ)は続けました。
「でも、僕は(宇宙を)旅するのが好きなんだから、僕の妻たるものも、旅をするのが好きでなくっちゃ」
 
 とうとうツバメ(マーズ)は「僕と一緒に(地球へ)行ってくれないか」と彼女に言いました。
 でも葦(フローレ)は首を横に振りました。彼女は自分の家(マルメロ星)にとても愛着があったのです。
 
「君は僕の事を弄んでいたんだな」とツバメ(マーズ)は叫びました。
「僕はピラミッド(地球:バトルキャンプ?)に出発するよ。じゃあね」ツバメ(マーズ)は飛び去りました。
 
 一日中ツバメ(マーズ)は(宇宙を)飛び、夜になって町(ズーロピア市)に着きました。
「どこに泊まったらいいかな」とツバメ(マーズ)は言いました。
「泊れるような処があればいいんだけれど」それからツバメ(マーズ)は高い柱の上の像を見ました。
「あそこに泊まる事にしよう」と声をあげました。「あれはいい場所だ、新鮮な空気もたくさん吸えるし」
 
 そしてツバメ(マーズ)は幸福の王子の両足のちょうど間に止まりました。
「黄金のベッドルームだ」ツバメ(マーズ)は辺を見回しながらそっと一人で言い、眠ろうとしました。
 
 ところが、頭を翼の中に入れようとしたとたん、大きな水の粒がツバメの上に落ちてきました。
「何て不思議なんだ!」とツバメ(マーズ)は大きな声をあげました。
 
「空には雲一つなく、星はくっきりと輝いているというのに雨が降っているなんて。北ヨーロッパ(第四恒星系)の天候は全くひどいもんだね」
 
 すると、もう一滴落ちてきました。
 
「雨よけにならないんだったら、像なんて何の役にも立たないな」ツバメ(マーズ)は飛び立とうと決心しました。
 でも、翼を広げるよりも前に、三番目の水滴が落ちてきて、ツバメ(マーズ)は上を見上げました。
 
 すると、何が見えたでしょうか。
 幸福の王子の両眼は涙でいっぱいになっていました。そしてその涙は王子の黄金の頬を流れていたのです。
 王子の顔は月光の中でとても美しく、小さなツバメ(マーズ)は可哀想な気持ちでいっぱいになりました。
 
「あなたはどなたですか」ツバメ(マーズ)は尋ねました。
 
「私は幸福の王子(マーグ)だ」
 
「それなら、どうして泣いているんですか」とツバメ(マーズ)は尋ねました。「もう僕はぐしょ濡れですよ」
 
「まだ私が生きていて、人間の心を持っていた時の事だった」と像(マーグ)は答えました。
  
「私は涙というものがどんなものかを知らなかった。というのは私は(ズーロピアの)宮殿に住んでいて、そこには悲しみが入り込む事はなかったからだ。庭園の周りにはとても高い塀がめぐらされていて、私は一度もその向こうに何があるのかを気に掛けた事がなかった。周りには非常に美しいものしかなかった。廷臣たちは私を幸福の王子と呼んだ。もしも快楽が幸福だというならば。私は幸福に生き、幸福に死んだ。死んでから人々は私をこの高い場所に置いた。ここからは町(ズーロピア市)のすべての醜悪な事、すべての悲惨な事が見える。私の心臓は鉛でできているけれど、泣かずにはいられないのだ」
 
「何だって! この王子は中まで金でできているんじゃないのか」とツバメ(マーズ)は心の中で思いました。
 けれどツバメは礼儀正しかったので、個人的な意見は声に出しませんでした。
 
「ずっと向こうの」と、王子の像(マーグ)は低く調子のよい声で続けました。
 
「ずっと向こうの小さな通りに貧しい家がある。窓が一つ開いていて、テーブルについた御婦人が見える。顔はやせこけ、疲れている。彼女の手は荒れ、縫い針で傷付いて赤くなっている。彼女はお針子をしているのだ。その婦人はトケイソウの花をガウンに刺繍しようとしている。そのガウンは女王様の一番可愛い侍女(ミカ)の為のもので、次の舞踏会に着る事になっているのだ。その部屋の隅のベッドでは、幼い息子が病の為に横になっているのだ。母親が与えられるものは川の水だけなので、その子は泣いている。ツバメさん、ツバメさん(マーズ、マーズ)。私の剣のつかからルビーを取り出して、あの(明神)婦人にあげてくれないか。私は行けないのだ」
 
「私はエジプト(地球)に行きたいんです」とツバメ(マーズ)は言いました。
 
「ツバメさん、ツバメさん(マーズ、マーズ)」と王子(マーグ)は言いました。
 
「もう一晩泊まって、私のお使いをしてくれないか。あの子はとても喉が乾いていて、お母さん(明神夫人)はとても悲しんでいるのだよ」
 
「私は男の子が好きじゃないんです」とツバメ(マーズ)は答えました。
 でも幸福の王子(マーグ)がとても悲しそうな顔をしましたので、すまない気持ちになりました。
 
「ここはとても寒いですね」とツバメ(マーズ)は言いました。
「でも、あなたのところに一晩泊まって、あなたのお使いをいたしましょう。
 
「ありがとう、小さなツバメさん(マーズ)」と王子(マーグ)は言いました。
 
 そこでツバメ(マーズ)は王子の剣から大きなルビーを取り出すと、くちばしにくわえ、町の屋根を飛び越えてでかけました。
 ツバメ(マーズ)は、白い大理石の天使が彫刻されている聖堂の塔を通り過ぎました。
 宮殿を通り過ぎる時、ダンスを踊っている音が聞こえました。
 美しい女の子(ミカ)が恋人(ナオト)と一緒にバルコニーに出てきました。
 
「何て素晴らしい星だろう」彼(ナオト)は女の子(ミカ)に言いました。
「そして愛の力は何と素晴らしい事だろう」
「私のドレスが舞踏会に間に合うといいわ」と女の子(ミカ)が答えました。
「ドレスにトケイソウの花が刺繍されるように注文したのよ。でもお針子っていうのはとっても怠け者だから」
 
 ツバメ(マーズ)は川を越え、貧民街を越え、やっとあの貧しい家にたどり着くと、中を覗き込みました。
 男の子はベッドの上で熱のために寝返りをうち、お母さん(静子)は疲れきって眠り込んでおりました。
 
 ツバメ(マーズ)は中に入って、テーブルの上にあるお母さん(静子)の指ぬきの脇に大きなルビーを置きました。
 それからそっとベッドの周りを飛び、翼で男の子の額を扇ぎました。
「とても涼しい」と男の子は言いました。そして心地よい眠りに入っていきました。
 
 それからツバメ(マーズ)は幸福の王子(マーグ)のところに飛んで戻り、やった事を王子(マーグ)に伝えました。
 
「妙なことに」とツバメ(マーズ)は言いました。「こんなに寒いのに、僕は今とても温かい気持ちがするんです」
 
「それは、いいことをしたからだよ」と王子(マーグ)は言いました。
 
 そこで小さなツバメは考え始めましたが、やがて眠ってしまいました。
 考えごとをするとツバメ(マーズ)はいつも眠くなるのです。

 

 

 

 

 

 翌日「今夜、エジプト(地球)に行きます」とツバメ(マーズ)は言いました。
ツバメ(マーズ)はその予定に上機嫌でした。
 月がのぼると、ツバメ(マーズ)は幸福の王子(マーグ)のところに戻ってきました。
 
「エジプト(地球人)に何か言付けはありますか」と声をあげました。「もうすぐ出発しますから」
 
「ツバメさん、ツバメさん(マーズ、マーズ)」と王子(マーグ)は言いました。
「もう一晩泊まってくれませんか」
 
「ずっと向こう、町の反対側にある屋根裏部屋に若者(アキラ)の姿が見える。彼は紙であふれた机にもたれている。傍らにあるタンブラーには、枯れたスミレが一束刺してある。彼の髪は茶色で細かく縮れ、唇はザクロのように赤く、大きくて夢見るような目をしている。彼(アキラ)は劇場の支配人の為に芝居を完成させようとしている。けれど、あまりにも寒いのでもう書く事ができないのだ。暖炉の中には火の気はなく、空腹の為に気を失わんばかりになっている」
 
「もう一晩、あなたのところに泊まりましょう」良い心を本当に持っているツバメ(マーズ)は言いました。「もう一つルビーを持って行きましょうか」
 
「ああ! もうルビーは無いのだよ」王子(マーグ)は言いました。
「残っているのは私の両目だけだ。私の両目は珍しいサファイアでできている。私の片目を抜き出して、彼(アキラ)の所まで持っていっておくれ。彼はそれを宝石屋に売って、食べ物と薪を買って、芝居を完成させる事ができるだろう」
 
「王子様(マーグ!)」とツバメ(マーズ)は言いました。
「私にはできません」そしてツバメ(マーズ)は泣き始めました。
 
「ツバメさん、ツバメさん(マーズ、マーズ)」と王子(マーグ)は言いました。
「私が命じたとおりにしておくれ」
 
 そこでツバメ(マーズ)は王子(マーグ)の目を取り出して、屋根裏部屋へ飛んでいきました。
 ツバメ(宇宙鳥)は穴を通ってさっと飛び込み、部屋の中に入りました。
 その若者(アキラ)は両手の中に顔をうずめるようにしておりましたので、鳥の羽ばたきは聞こえませんでした。
 そして若者(アキラ)が顔をあげると、そこには美しいサファイアが枯れたスミレの上に乗っていたのです。
 
「私も世の中に認められ始めたんだ」若者(アキラ)は大声を出しました。
「これは誰か、熱烈なファンからのものだな。これで芝居が完成できるぞ」若者(アキラ)はとても幸福そうでした。

 

 

 

 

 

 次の日、月が出るとツバメ(マーズ)は幸福の王子(マーグ)の所に戻りました。
 
「おいとまごいにやってきました」ツバメ(マーズ)は声をあげました。
 
「ツバメさん、ツバメさん(マーズ、マーズ)」と王子(マーグ)は言いました。
「もう一晩泊まってくれませんか」
 
「もう冬です」ツバメ(マーズ)は答えました。
 
「冷たい雪がまもなくここ(ギシン星)にも降るでしょう。僕は行かなくちゃなりません。あなたの事は決して忘れません。来年の春、僕はあなたがあげてしまった宝石二つの代わりに、美しい宝石を二つ持って帰って来ます。ルビーは赤いバラよりも赤く、サファイアは大海のように青いものになるでしょう」
 
「下のほうに広場がある」と幸福の王子(マーグ)は言いました。
 
「そこに小さなマッチ売りの少女がいる。マッチを溝に落としてしまい、全部ダメになってしまった。お金を持って帰れなかったら、お父さんが女の子を打つだろう。だから女の子は泣いている。あの子は靴も靴下もはいていないし、何も頭に被っていない。私の残っている目を取り出して、あの子にやって欲しい。そうすればお父さんから打たれないだろう」
 
「もう一晩、あなたのところに泊まりましょう」ツバメ(マーズ)は言いました。
「でも、あなたの目を取り出すなんて出来ません。そんな事をしたら、あなたは何も見えなくなってしまいます」
 
「ツバメさん、ツバメさん(マーズ、マーズ)」と王子(マーグ)は言いました。
「私が命じたとおりにしておくれ」
 
 そこでツバメ(マーズ)は王子(マーグ)のもう片方の目を取り出して、下へ飛んでいきました。
 ツバメ(マーズ)はマッチ売りの少女(クミbyバレン)の所までさっと降りて、宝石を手の中に滑り込ませました。
「とっても綺麗なガラス玉!」その少女は言いました。そして笑いながら走って家に帰りました。
 それからツバメ(マーズ)は王子(マーグ)の所に戻りました。
 
「あなたはもう何も見えなくなりました」とツバメ(マーズ)は言いました。
「だから、ずっとあなたと一緒にいることにします」
 
「いや、小さなツバメさん(マーズ)」と可哀想な王子は言いました。「あなたはエジプト(地球)に行かなくちゃいけない」
 
「僕はずっとあなたと一緒にいます」ツバメ(マーズ)は言いました。
 そして王子(マーグ)の足元で眠りました。

 

 

 

 

 

 次の日一日、ツバメ(マーズ)は王子(マーグ)の肩に止まり、珍しい土地(宇宙の星々)で見てきたたくさんの話をしました。
 
「可愛い小さなツバメさん(可愛いマーズ)」王子(マーグ)は言いました。
 
「あなたは驚くべき事を聞かせてくれた。しかし、苦しみを受けている人々の話ほど驚くべき事はない。度しがたい悲しみ以上に解きがたい謎はないのだ。小さなツバメさん(マーズ)町へ行っておくれ。そしてあなたの見たものを私に教えておくれ」
 
 ツバメ(マーズ)はその大きな町(ズーロピア市)の上を飛び回り、金持ち(貴族)が美しい家で幸せに暮らす一方で、乞食がその家の門の前に座っているのを見ました。
 暗い路地に入って行き、ものうげに黒い道を眺めている空腹な子供達の青白い顔を見ました。
 それからツバメ(マーズ)は王子(マーグ)の所へ戻って、見てきた事を話しました。
 
「私の体は純金で覆われている」と王子(マーグ)は言いました。
 
「それを一枚一枚剥がして、貧しい人にあげなさい」
 
 ツバメ(マーズ)は純金を一枚一枚剥がしていき、とうとう幸福の王子(マーグ)は完全に輝きを失い、灰色になってしまいました。
 ツバメ(マーズ)が純金を一枚一枚貧しい人に送ると、子供達の顔は赤みを取り戻し、笑い声をあげ、通りで遊ぶのでした。
「パンが食べられるんだ!」と大声で言いました。

 

 

 

 

 

 やがて、(ギシン星にも)雪が降ってきました。その後に霜が降りました。
 可哀想な小さなツバメ(宇宙鳥のマーズ)にはどんどん寒くなってきました。
 でもツバメ(マーズ)は王子(マーグ)の元を離れようとはしませんでした。
 心から王子(マーグ)の事を愛していたからです。
 パン屋が見ていないとき、ツバメ(マーズ)はパン屋のドアの外でパン屑を拾い集め、翼をぱたぱたさせて自分を暖めようとしました。
 でも、とうとう自分は死ぬのだと判りました。
 ツバメ(マーズ)には、王子(マーグ)の肩までもう一度飛び上がるだけの力しか残っていませんでした。
 
「さようなら、愛する王子様(マーグ)」ツバメ(マーズ)は囁くように言いました。
 
「あなたの手にキスをしてもいいですか」
 
「あなたがとうとうエジプト(地球)に行くのは私も嬉しいよ、小さなツバメさん(マーズ)」
と王子(マーグ)は言いました。
 
「あなたはここに長居しすぎた。でも、キスは唇にしておくれ。私もあなたを愛しているんだ」
 
「私はエジプト(地球)に行くのではありません」とツバメ(マーズ)は言いました。
「死の家に行くんです。『死』というのは『眠り』の兄弟、ですよね」
 
 そしてツバメ(マーズ)は幸福の王子(マーグ)の唇にキスをして、死んで彼の足元に落ちていきました。
 その瞬間、像(マーグ)の中で何かが砕けたような奇妙な音がしました。
 それは、鉛の心臓がちょうど二つに割れた音なのでした。ひどく寒い日でしたから。

 

 

 

 

 

 次の日の朝早く、市長(ズール)が市会議員達(家臣)と一緒に、像の下の広場を歩いておりました。
 柱を通り過ぎる時に市長が像を見上げました。「おやおや、この幸福の王子は何てみすぼらしいんだ」と市長(ズール)は言いました。
 
「何てみすぼらしいんだ」市会議員達(家臣)は叫びました。
 
 彼等はいつも市長(ズール)に賛成するのです。皆は像を見ようと近寄っていきました。

「ルビーは剣から抜け落ちてるし、目は無くなっているし、もう金の像じゃなくなっているし」と市長(ズール)は言いました。
 
「これでは乞食と対して変わらんじゃないか」
「乞食と対して変わらんじゃないか」と市会議員達(家臣)が言いました。
 
「それに死んだ鳥(宇宙鳥)なんかが足元にいる」市長(ズール)は続けました。
「我々は実際、鳥類はここで死ぬ事能わずという布告を出さねばならんな」
 
 そこで書記(サグール)がその提案を書き留めました。
 そこで彼等は幸福の王子の像を下ろしました。
 溶鉱炉で像を溶かす時に、その金属を使ってどうするかを決めるため、市長(ズール)は市議会を開きました。
 
「もちろん他の像を立てなくてはならない。そしてその像は私の像でなくてはなるまい」と市長(ズール)は言いました。
「いや、私の像です」と市会議員達がそれぞれ言い、口論になりました。私が彼等の噂を最後に聞いた時も、まだ口論していました。
 
「おかしいなあ」鋳造所の労働者の監督(Dr.シキシマ)が言いました。
 
「この壊れた鉛の心臓は溶鉱炉では溶けないぞ。捨てなくちゃならんな」
 
 心臓は、ごみために捨てられました。そこには死んだツバメ(宇宙鳥)も横たわっていたのです。

 

 

 

 

  

 (赤いお姿の)神様が天使達の一人に「町(ズーロピア市)の中で最も貴いものを二つ持ってきなさい」とおっしゃいました。
 
 その天使(ロゼ(嬉))は、神様のところに鉛の心臓と死んだ鳥(宇宙鳥)を持ってきました。
 
(赤い)神様は「よく選んできた」とおっしゃいました。
 
 
 
「天国の庭園でこの小さな鳥(マーズ)は永遠に歌い、黄金の都でこの幸福の王子(マーグ)は私を賛美するだろう」

 

 

 

 

 

                                        END
 


悲しい世界の名作も、はとちゃんの手に掛かるとこれこの通り!
キャスティングが妙にマッチしてて、楽しかったですわ。
ありがとうございました。
 
2003.2.25 きり
 
*訳詞の著作権はフリーです。

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