檸檬3 ヴァイオリン様
治療室では、タケルが目を閉じて満天の星空へと想いを巡らせていた。 (マーグ。教えてくれ。…君にも、こんな気持ちはあったのだろうか?) タケルは今、強く恋愛を体感していた。 生き急いだ兄にも、この不思議な力みなぎる体験があったか。 (相手は誰でも良い。…俺以外で、誰か愛していたか?) 無言の宇宙に、限りなく(YES)に近いなにかを感じると、タケルは深く息を吸い、頷いた。 目を開け、暗い室内を見渡す。 (ロゼは俺のことが、すきなんだろうか) 寝返りを打つ。 (なにか、わけがあって、言い出せないんだろうか) タケルは、先刻別れ際に見せた、ロゼの自責の表情を見逃していなかった。 (やはりマーグの死のことだろうか…。 もう一度寝返りを打つ。 (だが、もし、そういうことなら…。言わせてやりたい) 熱い想いをたしかめるように、胸元に毛布を抱き寄せる。 (ロゼの心の鎖を解き放つ。なにもかも自由に、言えるようにしてやりたい) 「愛してる」 (って、言ってくれたら、俺はどんなに嬉しいだろう…!!) 恋する青年らしい時めきで、タケルは体内に期待というエネルギーが充満してゆくのを実感し、そんな急速な気分の回復を我ながら頼もしく感じていた。 (そうしたらもう、誰か他人を、羨ましいなんて思わないだろう、絶対…!) タケルは刹那さの中にも、妄想による喜びを感じずにはいられないなかった。
(だが、もし、ズールに俺が負けるようなことがあったら。 今まで、無意識にも意識せざるを得なかったズールとデビルリングの恐怖が、今夜は忘れられそうな程の小ささに、捕らえられる。
(生きていたい) タケルは心の中で呟いた。 美しい程にシンプルな願いであった。 タケルは先刻触れたロゼの頬の感触を思い出していた。 (生きていたい。そして彼女と、輝く未来を俺は築こう)
デビルリングの重圧を認めたくなくて、誰にも話せなかった自分がいた。 それはすなわち、ロゼの優しさを撥ね付けたい、何をも考えたくない日々なのであった。 (それでも彼女は来てくれた) (ごめん。気づいてやれなくて) (ロゼには自由に愛してほしい。どうか苦しまずに…。 1日も早くズールを倒し、この腕で幸福を抱きしめよう。
タケルは知った。 体が蝕まれても、精神が豊かに、力みなぎる時があるということを。 (灼熱の炎が空を焦がす星へ行く) (マーグら、俺を守ってくれた死者達を解放する) (ロゼ、それまで待っていてくれ。 一瞬、戦いの厳しさに返り、眉間に縦皺を寄せ、タケルは寝返りを打った。 両手を持ち上げ、手のひらにくちづけ、眠りに落ちる。明日の体力の回復を念じて…。 幾時間も立たずに、運命の太陽が、昇り始めていた。
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