Wind of change 1


〜 Wind of change 〜 1

甍 舞夢





 春の暖かい陽射しの中、寮からの道をタケルは防衛軍学校へと歩いていた。
普通なら16歳の高校生であれば、今頃夏休みの真っ最中。
だがタケルが防衛軍学校へ入学した時から、すでにごく一般の高校生ではなくなった。

 宇宙開発が進み、今や知的生命体は地球以外の惑星にも存在することが確認されている。その事実が解明されて以来、地球人類は国境・人種を越え、最高の科学技術・人材育成を推し進める道へと歩み出した。
明神タケルもその一人として厳しい試験と審査をパスし、地球防衛軍学校に入学した。「防衛軍」と付くその名の通り、彼は軍人の道を選んだ。
彼は戦いを好んで入ったのではなかった。
むしろその反対だ。
他の惑星に住む知的生命体が平和主義者ばかりとは限らない。地球人類でも平和を好む人間と戦いを好む人間が居る。惑星が違うのだ。思想・習慣が違って当然の生命体があってもおかしく無い。地球人が友好的でも異星人にとっては理解出来ないことかも知れない。
一方的に攻撃されることも有り得るのだ。
その時には地球を守る為に戦わなければならない。それは異星人を攻撃する為でなく人類を守る為に必要不可欠な組織、それが「地球防衛軍」という訳である。

                         ◇

 タケルは幼い頃から、地球人以外の異星人が居ることを信じてきた。
そして、その異星人と交流することが夢だった。タケルの父である明神正はいつもタケルの話を真剣に聞き、認めてくれた。
そうして父はこう言うのだった。
「いつか本当にお前の考えるような時代がやって来るだろう。その時、大人達はお前の言うことを甘い夢だと批判する人間が居るだろう。しかし、お前は自分自身のその夢を信じなさい。お前のその夢は人に誇れるものだよ」
優しさの中に厳しさを込めた眼差しで、父は微笑んでいた。
 その父は今、この世には居ない。
一ヶ月前にタケルの父は交通事故で亡くなった。
しかしその死は、あまりに謎が多過ぎた。犯人も捕まっていない。
父の死後、タケルの知らない事実が知らされた。
自分が明神夫妻の実の息子では無かったこと。
赤ん坊の時に引き取られ、2人に育てられてきたこと。
そして何より、強い衝撃を受けたのは自分が地球人ではなかったこと。
まだあった。双子の兄弟である兄が居ること。
その兄は今、地球に居るということ。
この一月余り、タケルの混乱は尋常なものではなかった。まさしくパニック寸前の心境だった。ただ「普通の人とは違う」という事はタケル自身、自覚することが何度かあった。
予感が当たる。
予知夢と呼ばれるものを見たことも多い。
さらに意識を集中させると物を動かすことも出来た。
その力は子供の頃より今になって、さらに強くなってきたようだった。人に気付かれないように隠し続けてきた力でもあった。両親を除いては…。
しかし両親も自分と繋がりの無い人間であった。突如、身の回りにある全てのものが違うものに変わってしまった。自分の存在すら不確かなものになってしまったのだ。
寂寥感、孤独感が一度に襲いかかってくる。
心の中にポッカリ空いた不安の穴は、時間が経つごとにどんどん広がってゆく…。
今まで違う、と思っていたのは自分に不思議な力があることだった。それは隠せば何とかなるものだと思っていた。
甘かった…とタケルは苦笑するしかない。その力こそが、決定的に何もかも違うという証拠だった。
     地球人とは違う異星人<エイリアン> ――――――――――

「おはよう、タケル」
後ろから声を掛けられ、振り向くと日向ミカが立って居た。
「どうしたのタケル?私の前を知らんぷりして通り過ぎてくんだもん」
言いながら、ミカはタケルの隣りに並んで歩き出した。
「ゴメン。ぼーっとしてた」
「まったく、タケルったら…」
"しょうがないなぁ"という顔してミカは笑った。
「ホントにしっかりしろよな、タケル」
聞き慣れた声にタケルとミカは一斉に振りむいた。
伊集院ナオトは2人の会話を聞いていたのか、タケルを見てやっぱり"仕方無いな"という顔で苦笑していた。
ナオトはミカと反対側に立ち、タケルを挟む格好で歩き出した。
 今日の講義は1時限だけで、その後実技訓練がある為3人とも戦闘服を着ていた。実技訓練は戦闘機であるコスモ機に搭乗し、空を飛ぶことである。
ナオト、ミカとはチームを組み、いずれは戦友となるであろう仲間だった。
特にナオトとは同い年ということと同じ射撃担当ということもあり、ライバル兼悪友。つまりは親友だ。素直で明るい性格のタケルと負けん気の強いガキ大将タイプのナオトとは気が合った。
タケルが何気に周りを見ると、他の訓練生達が自分を見ている。父の死後、タケルが地球人で無いことが知れ渡り、訓練生の中にはタケルを色メガネで見る者も現れた。以前わりと仲良くしていた連中の中には、タケルが異星人であると分かった時から避けようとする者も現れた。変わらず付き合う連中も居る。
「気にすんな。地球人でないとしても、お前はお前だ」
ナオトはタケルの表情から、心を読み取ったかのように言った。
「そうよ、私達はタケルのこと良く知ってる。言いたいヤツには言わせておけばいいのよ」
ミカはタケルの代わりに、タケルを差別に満ちた目で見る者達を睨みつけた。それを見て、思わずタケルは笑ってしまった。
「あー、何よぉ?」
「いや、ミカは頼もしいなと思ってさ」
こういうミカの正義感というか、気の強さは今のタケルにとって有り難かった。
「あんまりそういう顔をしてるとモテないぜ」
ナオトがキツイ一言を言っても、ミカは"気にしません"と言わんばかりに明るく笑っている。ミカは単に気が強い訳ではない。本当に優しい娘だ。
タケルもナオトもミカのその優しさを知っていた。
「今日、会うんだってな」
突然、ナオトが言い出した。
「え?何だよ。いきなり…」
「私達、飛鳥教官から聞いたの」
「………」
「今日、お前が双子の兄さんに会うってことさ」
「……教官から?」
「ああ、俺達はチームを組んでる。お前の複雑な状況を少しでも理解する者が必要だってことで、昨日話を聞いた」
ミカも頷いた。
「そうか…。じゃぁ、アキラも?」
「ああ、知ってる」
「タケル、こんな事言っても何にもならないかも知れないけど…」
「何だ?」
「私はタケルに肉親が居て良かったと思ってる」
「………。会ったこともない肉親だけど…」
言いながらタケルは冷めた笑顔を浮べた。
「タケル!」
ミカは悲しい目でタケルを見ていた。
「分かってるよ、ミカの気持ちは…」
タケルはミカの悲し気で憂いに満ちた目を見ると、どこにぶつければいいのか分からない感情が湧き上がり目を背けた。
「お前のキツくて辛い気持ちも分かる。けどな、お前はいずれこの地球を守ってゆく人間になるんだ。いつまでも…」
「分かってる!!」
タケルはこれ以上ナオトの言葉を聞きたくなかった。
「分かってる。そんな事ぐらい…」
それだけ言うとタケルは、ナオトとミカから逃げるように歩き出した。タケルの背中を見つめながら、ナオトもミカも同じように悲しく辛い想いを抱えていた。
「また前みたいなタケルに戻ってくれるかな…」
ミカが独り言のように言う。
「……きっとな。時間がかかるかも知れないけどな…」
「うん」
泣き出しそうな顔をしながらミカは頷いた。
「泣くなよ。俺だって泣きたいくらいなんだ…」
そう言うと、ナオトはミカに顔を見せず歩き出した。
「ナオト…」
ミカはそんなナオトを見て涙を拭い、少しだけ笑った。
「笑うなっ」
背中を向けたままナオトは小さな声で言った。

                               ◇



読んで下さった皆さま、ありがとうございます。
(GMに限らず)パロディ小説を書くのは本当に久しぶりで、
しかもHPに載せるなんて初めての経験なので、ドキドキしてます。
これから、この小説はもう少し続きます。
諦めずにお付き合いして下さいね(笑)。
続きを書くのが遅い予感もしますが、
最後まで辿り着くよう頑張りますので、良ければ感想を
メールで送って頂けたら嬉しいです。
最後に、この場を借りて。。。
きりちゃん、HPに載せてくれてありがとうございます。
お世話を掛ける事が多々あるかと思いますが、
懲りずに付き合って下さいませ。

甍 舞夢
narumi8@pop21.odn.ne.jp


舞夢ちゃん、ありがとう。
こんな期待一杯のお話を頂けるとは
夢にも思いませんでした!
続き楽しみにしてます。
きり

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