ROSET Prelude

ゼーロンさま


 

 


「どうやら、閉じ込められたな」

しんしんと冷え込んでいく洞窟の中でタケルは呟いた。敵の攻撃からロゼを庇いながら、逃げ込んだ鉱山の中。

鉱山の入り口付近に流れ弾が着弾して爆発した。次々と爆発が起き、タケルはロゼを抱えたまま崩れ落ちる地盤に飲み込まれて、そこから意識がなくなった。

気が付けば地中深くの洞穴にロゼと二人でいた。

俺はどうして彼女を助けたのだろう?彼女は兄を殺した人物なのに。繰り返し煩悶するタケルに養母の静子の声が聞こえた。

「復讐は復讐を生むだけ。ロゼにも親兄弟がいるわ!彼女を殺せば今度はその人たちがあなたを殺すでしょう。それでは何も解決しません。誰かが鎖を断ち切らなければならないのよ」

復讐は復讐を生むだけか…。タケルはこの言葉を繰り返し、傍らに横たわっているロゼを見つめた

彼女の顔を見ているとさまざまなことを思い出した。マーグのこと、実父母のこと、未だ見たことがない生まれ故郷であるギシン星のこと。

彼にとって兄以外の同胞であるギシン星人とこんなに深く係わったのは、ロゼが初めてだった。それまでのギシン星人は刺客として、ただ闘うのみだった。

ロゼは、洗脳後のマーグの傍らに影のように寄り添っていた。彼はいつもロゼを従えていた。タケルも二度ほど彼女と戦ったことがある。意志の強そうな顔立ち、戦士として己の使命に何の疑問も持たない戦う人形。

「戦う人形か…」

この言葉は今のロゼに一番当てはまるような気がした。美しいが魂を持たない、自分の意志を持たない存在。

「君は一対何のために戦っている?ズールのためだけ?それともマーグのためにか?」

「ルイ…」

タケルは一瞬耳を疑った。

「ルイ…」

微かに魘されるようにロゼが呟いていた。周りは急激に冷え込んできたようだった。ロゼは未だ気を失っている。

タケルより薄着の彼女はこのままだと凍えてしまうだろう。タケルは何も考えずにロゼの手を取ると、己の生体エネルギーを彼女に送り込んでいた。

とても暖かいぬくもりを感じた。まるで、春の日差しのような暖かい光。懐かしい。とても穏やかだ。こんな感じは、もう何年も感じたことがない。ロゼの意識はうっすらと目覚めていった。

この感じ、前にも感じたことがある。ずうっと昔に。そう、遠い昔に。いつ?まだ両親が生きていた頃、幼い頃、平和な時代、もう戻れない時代。

ゆっくり浮上する意識が瞳を開かせる。微かに人のけはいを感じた。誰?確かめようと瞳を意識を、目覚めさせた。そこには自分の手をとり己のエネルギーを使って、自分を暖めているマーズがいた。

「何をしている!?」

ロゼは、弾かれたようにマーズの手を振り解くと彼からにじり去った。

「お前を…暖めていた…」

マーズは残り少ない体力を先程のエネルギー交流で消耗したようだった。かなり辛そうに答えた。

「よけいなことを…。私はギシン星の戦士!お前と闘って死ぬのは私の望むところ!」

ロゼはマーズを見据えながら、まるで己に言い含めるように叫んでいた。

タケルはそんな彼女が哀れに思えた。必死で何かに縋ろうとしている、しかしその何かは今崩れ去ろうとしている。そしてそれを前に彼女は子供のように怯えている。

大丈夫、なにも心配ないんだよと彼女の傍に行って言いたかった。近寄ろうとしたが、予想以上に体力は消耗し、立ち上げることもできず、よろめいてしまった。

「マーズ?」

ロゼは思わず、彼の名を心配のあまり呼んでしまった。マーズは肩で息をしていた。辺りがまた冷え込んできたようだった。音も無く氷のかけらが静かに降ってきた。ロゼには判らなくなってきた。「なぜ、敵である私を助けようとする?味方の者でさえ戦いのためなら殺そうとするのに…。なぜ?」

二人ともそれ以上何も言わず、しかし離れもせず寄り添うように岩盤にもたれ、座っていた。
これまでの二人からは考えも出来ない事だった。つい先程まではお互いこれ以上ないほど憎しみあい、殺しあっていたのに、今の二人の間にあるのは静かな沈黙だった。そこにはやすらぎさえあった。まるで二人の間にマーグがいるようだった。

マーグ。マーズの美しい双子の兄。お互いに魂と身体を分け合った半身。その境遇は地球とギシン星のように離れあっていた。この美しく悲しい双子が母の胎内にいた時と同じように一緒にいられる時間はごく僅かであった。しかし、マーグはそのことを知り、自ら望んでその死を受け入れていったようであった、二人を助けるために。自分の弟と自分と同じ境遇の彼女を助けるために。

ロゼもマーグを感じていた。自分が理不尽な理由をこじ付け、マーズを殺そうとしているのがとても馬鹿らしく思えた。

馬鹿な私。本当は私が彼を殺してしまったのに、だけど殺すつもりはなかった。彼を助けたかった。でもできなかった。マーズこそ、私を殺したいはずなのに。彼にはその資格がある。私は彼に殺されるべきなんだわ。今がその時なのに…。どうして殺さないの?

打ち寄せる波のように繰り返し押し寄せる、後悔、罪の意識、懺悔、自己嫌悪に必死に耐えるロゼにマーズは静かに声をかけてきた。

「ロゼ。ルイってだれなんだ?」

マーズの口から懐かしい肉親の名が出てきてロゼはつい身構えていた。

「どうして…ルイを!」

「君がさっきうわ言で言っていた…」

静かにマーズが答えた。

うわ言とはいえ妹の名を呼ぶなんて。敵に弱みを見せるなんて。ロゼは自分に苦笑した。戦士としてあるまじき行為だ。しかし同時にマーズに全て話したくなった。そうだ、これと同じ会話を私はしたことがある。どこで?

「ルイは私の妹」

 

<妹が一人>

 

「故郷にいる。第四恒星系第八番惑星」

 

<…ルイ…>

 

「じゃあ、ロゼ。君はギシン星人じゃなかったのか!?」

 

<…君に似て綺麗なんだろうな…>

 

「美しい星。私の故郷…」
 

 

 

 

 

 続く


ゼーロンさま

ほんっとにありがとうございました!
ロゼのお話だ〜うれし〜!
洞窟シーンってだけでにやにやしながら読んじゃいました。

3部作のうちの1作目だそうです。
続き、楽しみにしてますね。
きりにゃ

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