ROSEU Allemande

 

ROSEU Allemande

ゼーロンさま

 


 

 彼女の持つ記憶がゆっくりとタケルに流れ込んできた。これがロゼの生まれた星。地球と良く似た美しい星。かわいらしいが意志の強さを感じさせる瞳を持つ金髪の少女、それがルイ、ロゼの妹。いつの間にかロゼの顔から険しさが消えていた。そこには今までの戦士の顔ではなく、一人の少女の顔があった。頑な彼女の心が少しだが、開いてきた。

 

 

 ロゼとルイはある意味でマーグとマーズに似ていた。同じ血を分けた兄弟、姉妹が二つに分かれて闘いあう。そこには、自らの意志と他人から強制された違いがあったが。

 しかし、彼女らも強大な力をもった独裁者ズールによる哀しい犠牲者に違いなかった。
お互いに生き残るために選んだ道。例えそれが立場を違わせ殺しあうことになっても、彼女らが自ら選んだ道。誰がそれに文句を言えるだろう?

「もう、死んだのかもしれない…」

 消え入りそうな声でロゼが呟いた。

「生きているかもしれないだろう?」

 優しく諭すようにタケルが答えた。

 ズールの忠実な代理人。血が通わない戦う人形。そして、マーグを誤って殺してしまったギシン星人。それが今迄のロゼ。だが、彼女が話す妹との確執は、タケルと兄の境遇と似ていた。ここにも俺達だけではなくズールの犠牲者がいたのか…。そう思うとロゼをそれ以上責める気にはなれなくなっていた。彼に背を向け、冷たい岩盤を叩いている彼女は、人形ではなかった。必死に生き抜いてきた人間、過酷な運命に抗っている人間。

 俺は彼女を殺せない。それに彼女を殺せば、今度は彼女の妹が俺を殺しにくるだろう。母さんが言ったとおりに。愛に終わりがないように、憎しみにも終わりがない。

 

 ロゼは自分の心の動揺を抑えきれずに戸惑っていた。

 どうして、妹のことをマーズに話してしまったのだろう?今迄、誰にも話したことなかったのに。誰にも?いえ、違う。マーグには話した。彼にだけ。彼だけだったのに。なぜ?マーズに自分のした事を許してもらうため?違う!

「そんなことはどうでも良い!どちらかが生き残る!マーグとマーズのようにね!」

 ロゼは心の葛藤に耐えられずマーズに叫んでいた。

 彼女の言葉はタケルに哀しい事実を思い起こさせた。

「同じ兄弟であんなことは俺達だけでたくさんだ!」

 そう、もう俺達だけで終わりにしなくてはいけない。こんな思いを永遠に続かすわけにはいかない!

 タケルはロゼを見つめた。マーグを思い起こさせる澄んだ蒼い瞳が揺らいでいる。
なぜ、マーグが彼女を気にかけていたのか判るような気がした。強大な超能力を持ちながら、まるで蝶の羽のように脆く壊れそうな儚げさを併せ持っている。頼りなげで、傍にいて守りたいという気持ちをかき立てられる…。
 

 

 そこから先は二人ともよく憶えていない。急激な寒さと体力と酸素の欠乏で意識を保てなかったからだ。しかし、二人とも薄れ行く意識の中、お互いを求めあうように探していた。そしてようやく見つけ出し、その手が結ばれた時に、常人では考えられない心の交流が交わされた。二人の持つ憎しみは融かされ、癒され、心が通じ合った。

 その二人の上に音も無く、まるで時が結晶化されたような氷が降ってきた。
 

 

  

「ロゼ。君が知っている兄さんのこと…、話してくれないか?」

「?」

「俺は兄さんのことを良く知らない。17年間離れ、知ったのはつい最近だ。君は少なくとも俺より長く兄さんに接している、だから教えてほしいんだ。兄さんのこと」

「…」

「君を責めているんじゃない。俺は今迄地球人として育ち、ギシン星人と知ったのはごく最近なんだ。双子の兄がいることも超能力があることも知らなかった。だから色々知りたいだけだ。兄さんのこと、ギシン星のこと」

「…マーグは、今迄の司令官と違い配慮に富み、兵にも慕われていた。長ずればよい指揮官となっていたでしょう」

「兄さんは優しかった?」

「ええ」

「ロゼ。君は兄さんが…マーグを…好きだった?」

「…よくわからない」

「よくわからないって?どうして?君から感じるのはマーグへの思いばかりだ。好きだったんだろう?兄さんのこと?」

「そうかもしれない…」

「そうかもしれないって?」

「マーグと私は似ていた。わたしたちはお互い哀しい両親の思い出しかなく、血縁の兄弟とは争う運命を持っていた。でも、マーグは、あの人は、洗脳されて過去を失ってからもその優しさを無くすことは無かった。その美しさを無くすことがないように。あの人は優しかった。私はその優しさから彼に命を助けられ、あなたにも命を助けられた。あなた達は本当に似ている。例え離れて育っていてもその身に宿る魂は同じなのでしょう」

「君にそう言ってもらえると嬉しい」

「マーズ?」

「そうか、俺達は似ているのか。この広い宇宙の中で俺達兄弟を良く知っているのは君だけだよ、ロゼ」
 

 

 

 

Courenre

 

 

 

「今は見えないけれど、いつもあの辺りに私の生まれた星が見えるの」

「君の星も、これからは平和になるさ。きっと」

 ロゼにとって短い間だったが、マーズと共にいられたのは幸せだった。彼のおかげで、ようやく自分の過ちを認められ、長年対立していた妹と和解ができ、故郷は独立を取り戻した。それにマーズを始め地球人と接し、その考え方を知ったのもロゼにとって新鮮だった。確かに地球人はギシン星人に比べ遥かに文明が劣ったが、ギシン星にはない無邪気さと親愛の情とがあった。

 ズール皇帝が恐れたのも無理もない、愛は力よりも遥かに強く広く人々の心を捉え、一つにまとめることができる。恐らく、そう遠くない未来に地球人種はこの宇宙に勢力を伸ばすことができるだろう。
 

 

 

 ギシン星の執務室から見える街の夜景を見るのがロゼは好きだった。心を澄ませば、そこに住む人々の活気を感じることができた。嘗ての独裁政治が嘘のようだった。でも、それは彼が命を賭けてズールと闘ったからだ。彼がそうしなければ、この星はいやこの星系はいつまでも隷属されたままだったろう。

 今、どうしているだろう?元気だろうか?会って話がしたい。会って顔を見たい。

 一緒に地球に行こうというマーズの誘いを断ったのは、自分の犯した罪を償うためだった。自分の幸せを捨て人々のために何かしたかった。絆になりたかった。今迄自分が切り捨て、失った絆、それを取り戻したかった。そのことに後悔はしていない。

 だが、彼を見送った時に感じた喪失感は耐え切れないものだった。まるで身体の一部を引き裂かれたような感じがした。

 お互い生きていれば必ず会える。この言葉を呪文のように繰り返し唱えつづけていた。そして、これを支えに生きてきたし、これからも生き続けるだろう。

 定期的な太陽系方面報告によると、マーズが亡命者を保護したのが切っ掛けで、地球政府はマルメロ星の内乱に巻き込まれたらしい。

「俺は地球人ではないんだ。…17年前ギシン星からこの地球を葬り去るために送り込まれた厄介者だった。だが地球で俺を自分の子供のように育ててくれた両親や仲間達に、何が正しいかを教えられた。愛情溢れるやり方だった。辛い事もあったが…。俺が地球人になろうとしたために父や兄を失った」

 マーズなら大丈夫。彼ならどんな局面でも乗り越えていける。彼は強い人だもの。

 でも心配な面もあった。彼が地球人ではなく異星人であり、地球人が持たない強大な超能力を持つことで、他の地球人と軋轢が生まれないかどうか。弱者は強大な力を持つものに縋るが、必要以上に恐れ蔑み排斥する。今迄ギシン星が他の惑星への侵略行為で生ずる軋轢を嫌というほどその目で見てきたロゼにとって、それは事実であった。

 

 

「ロゼ!!」

「ロゼ……。今頃、どうしているんだろう?」

「ここへ降り立ったのは、思い出に浸るためなのか?…」

 

 

 マーズに会えるだろうか?会えるとしたらいつになるだろう?どこで?地球で?

 ぜひ、彼に今のギシン星を見て欲しい。生まれ変わったあなたの故郷を、マーグとあなたの生まれた星を、そしてあなたのご両親が眠る星を。

 マーグ、あなたは私の罪とともにある。私の罪が決して消えることがないように、あなたも消えることはない。私にできることは、あなたが出来なかったことを成すこと。あなたの弟を、あなたが愛した弟を守ること。あなたの思いを受け継ぐこと。それが私にできることのすべて、わたしがやらなければならないことのすべて。

 マーズ、誰よりも優しく強い人。あなたが私を忘れても私は忘れない。もし、あなたになにかあったら、今度は私があなたを助ける。そのためなら私の命を投げ打ってもいい。私はそのために今生きているのだから。

 夜景の光を写したように夜空の星々が絶え間なく瞬いている。ここから深遠の果てに一人の夜色の髪をした青年が理想と信念を胸に闘っていた。しかし、彼が欲しいものはただ一つ、ほんの一握りの愛だけ、自分のためだけの幸せとやすらぎ。そんな彼のささやかな願いも、その身に軍神の名を頂き、神々の名を持つ守護者を従える宿命が、強大な力と闘うことを運命付けられた彼には、今は許されるはずもなかった。
 

 

To be continued.


「さて、いかがでしょうか?ビクビク。

今回は、かなり私色がでていると思います。私なりのロゼとタケル君になってる
と思います。

TではほぼTVシリーズの台詞をなぞって、その間を補完するような形にしてあ
りましたが、今回はかなり私なりの私見が入っています。
でも、前回よりは時間がかかりましたね。Tは、なんか変な言い方ですけど、何
かが降りてきてそれを何も考えずに書いたって感じですけど、Uはかなり色々と
考え、いじりました。
でも、こうして読み直すと映像先行型の文章だなあ。かなり読み手の方の想像力
というかGMの知識に頼っていますね(笑)。
GMを知らない人は、なんのこっちゃと思うでしょうね。
本当に、Vで終わるのかしら?←オイオイ。多分Vは長くなるだろうなあ。皆嫌
がらないかなあ?
しかし、ロゼものが少ないあまり、とうとう自分で書き出したGMもの。
今は自給自足だけど(笑)、数少ない同士の方のも是非読んでみたいものです!
ね、きりさま。

いつか、フリークらでロゼ本が出せたら、素敵でしょうね。

忌憚のないご意見、ご感想をお待ちしておりますわ。

では、長くなりました。

                      From ゼーロン
PS;今回のROSEUでは、小曽根真さんの「Only We Know」という曲をBGMに
して書きました。
直訳すると「私達だけが知っていること」でしょうか?ああ、ロゼとタケルにぴ
ったりだと思ってしまったのです。
しかし、この曲がかなり泣けるバラードなのです。だから、この作品は小曽根さ
んのlittle helpを受けています。」

ありがとうございましたー!
首を長くしてお待ちしていた甲斐があったというものです。
元来あった科白をゼーロンさんなりに解釈なさって、それが彼らの心情としてお話が進んでいくのですが、
自分では気付けなかっただろうってことばかりで、思わずうなっちゃいました。

こんなことを考えていたからこんな科白が出てきたのか、って。
とても新鮮でした。

今回はゼーロンさん自ら「To be continued.」とお書きですので、みなさん、楽しみに待っていましょうね。

 

 

 

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