ROSEV Sarabande
ゼーロンさま
ジュリエット たった一つの私の愛が、たった一つの私の憎しみから生まれようとは!
−ロミオとジュリエットから−
荒れ狂う波が押し寄せる海岸にタケルとロゼの二人はいた。明るい陽光がきらめく中、何も知らない人が見れば恋人同士の語らいにしか見えなかっただろう。
「マーズ。あなたの助かる道は、ただひとつ」
「戦いを放棄することだ!」
吐き捨てるようにタケルが言い放った。
「そう、つまりズールに背かないこと…」
ロゼは後ろ姿のタケルに諭すように言った。彼は今、一対何を考えているのだろう?その彼の前を荒れ狂う波が砕け散っていった。
「ロゼ!俺がおとなしくズールの言う事をきくと思うか!」
タケルはいつもの彼なら養母にでさえ、絶対にしないだろうと思われる強い口調で叫んだ。
「いいえ」
彼女は力なく首を振った。
「ロゼ!俺は戦うぞ!どんなに苦しもうとも、この命が縮もうと、俺は戦いを止めない!ズールか俺かどちらかが倒れるまで!」
タケルは荒れ狂う波に向かって、そしてロゼに向かって叫んでいた。
「マーズ!だから私がきたの。私があなたの代わりに戦うわ!あなたの命が縮むのをだまってみていられない!」
ロゼは思わずタケルの腕を取っていた。不意のことに驚いたタケルはロゼを見つめた。マーグと同じ蒼い瞳は閉じられ、美しい顔は悲しみに満ちていた。
俺が彼女を悲しませている。そう思うとタケルは辛かった。何とか彼女を安心させたい。彼女の瞳を見たい。例えそれが気休めだとしても。「ロゼ。俺は今迄生き延びてこられただけでも、幸せだったんだ。地球を爆破する人間爆弾としてズールの手で地球に送り込まれた俺は、明神夫妻によって育てられなかったら、とっくの昔に地球と運命をともにしていただろう…。もし、そうなったら、俺を我が子のように育ててくれた明神夫妻に会う事も、マーグに会う事も、クラッシャーの仲間達にも会うことも…」
タケルはロゼを見つめ続けた。俺はいつまで、彼女の傍にいられるだろう?
「そして、ロゼ。君にもだ」
「マーズ」
「ロゼ。俺がこの世に存在するのは、ズールを倒すためなのかもしれない。ズールを倒さない限り、俺の苦しみも消えることがないんだ」
それはずっと彼が思ってきたことだった。地球人ではないと自覚したときから沸き出でた疑問は、マルメロ星との戦いの後で確信に変わった。
ズール、彼の母星であるギシン星系に絶対君主としてこの名を冠した者が復活した。一度はタケルがその身をもって滅したが、今度は皇帝ではなく闇の支配者として現れた。その始めに対敵となるタケルに反陽子爆弾よりも恐ろしい彼の命を蝕む「デビルリング」を両腕にはめ込んだ。
デビルリング、悪魔の輪、死への輪、闘う度に超能力を使う度に彼の生体エネルギーを奪い、苦痛をもたらす輪。普段は目に見えないが、マーズが戦う時やその決意を表した時にその実態を明らかにした。しかも地球の科学力はおろか、ギシン星の科学力を以ってしてもその輪をはずすことはできなかった。
「ロゼ……ロゼ!」
「ロゼ。君の力を借りたい」
「マーグなの?」
「マーズの命が危ないのだ」
「え!?」
「いくら地球のため、宇宙のためとはいえ、マーズは、戦うことによって命を縮めてしまう。
その命が尽きる時は、今日かも、明日かもしれない……。
ロゼ!地球に行け!そして、マーズを…」「マーグ、待って!」
「マーズを救ってくれ…マーズを!」
ロゼはギシン星でマーグに出会った。幻ではなく、確かにマーグだった。まるで、生きているかのように彼女に静かに語りかけてきた。
どうして今頃私の前に?マーズの命が危ない?マーズに何かあったのだ。そうでなければ、マーグが私の前に現れるはずなんかない!そう思うといてもたってもいられなくなり、急遽地球にやってきたのだった。今迄、あんなに我慢してきたのに。でも、マーズの命が尽きるなんてそんな!嘘でしょう?マーグ。
「ロゼ。よくきてくれたな」
うれしそうに、自分を出迎えるマーズをロゼは探るように見つめた。
<ロゼ!君は知っているのだな?ズールが俺の身体に仕掛けたデビルリングのことを!俺の命が残り僅かだということを!>
<マーズ!死なないで!マーズ!>
マーグの哀しい忠告は当たっていた。何かの間違いであることを願っていたロゼだったが、やはり事実だと認めざるをえなかった。彼女の心の目は確実に死の影に覆われていく彼の変化を捉えたが、常人には気づくはずもなかった。
「だって、タケルさんもなんだか元気がないし…」
やっぱり。マーズは口では強いことを言っても、一人で苦しんでいるんだわ。
彼の仲間や養母にさえもその事実を知らされていなかった。
マーグ、教えて。私はマーズに何をしてあげればいいの?
私に何ができるの?私がマーズにしてあげられるのは何なの?マーズを救うために。
マーズの力になれることといったら、いったいなに?答えは近くにありそうで、だから余計わからないのかもしれない。
ズールは攻撃の手を緩めなかった。次から次へと新たな攻撃を仕掛けてきた。
タケルはそれに応じるのに必死であった。「マーズ、あなたはそれ程までにこの地球のことを。でも、いくら身体を鍛えてもズールと戦う限り、あなたの命は縮んでしまうのよ」
ロゼには見守ることしかできなかった。彼への慰めや同情の言葉だけでは、彼は救えないのだ。
「マーズ、私も」
タケルの身を案じて、調査に赴くタケルに付き添うとロゼが申し出たが、タケルはそれをやんわりと拒んだ。
「いや、君はここにいてくれ。俺たちの仕事に君をまきこみたくないんだ」
それは彼の本心だった。そして、彼はまた命を磨り減らす戦いに身を投じていった。
マーグは地球に行ってマーズを助けろと言ったけれど、私は何もできない。
マーズは誰の手も必要としていない…。彼はたった独りで戦いつづけるつもりなんだわ。そう思うと本当に辛かった。誰にでも訳隔てなく優しい彼が、自分のことになると他人を寄せ付けなくなる。それが、マーズのロゼへの思いやりだとしても彼女には辛かった。
私はどうなってもいいのに…。あなたを助けるためなら、私の命など失ってもかまわない。
そうすることによって彼をどんなに悲しませ苦しませることになっても、ロゼは彼のために何かしたかった。しかし、彼が協力を拒んでいる以上、理由を明かさずこのまま地球に滞在していれば彼の仲間たちが不信に思うだろう。問い詰められれば、真実を告げてしまうかもしれない。私独りでこの真実を秘密にするには荷が重過ぎる。人一人の命がかかっているのだ。でも、もしそうなればマーズに迷惑がかかる。
「マーズ。明日ギシン星に帰ります」
「ロゼ?」
こうすることが一番良いのかもしれない。
Menuets T
南極のマーグの墓の前に二人はいた。ギシン星に戻る前にマーグの墓に挨拶したいというのがロゼの希望だった。タケルは跪き、語りかけるかのように祈っている。その後ろ姿は悲しげで儚げに見えた。マーグの墓は地球様式で作られていた。星の光のような十字架の墓標は異星育ちのロゼには奇異に見えたが、タケルがその意味を教えてくれた。地球では、それは神を、永遠の愛を現すと。その昔、救い主たる神の御子が人々の罪をその身に担い、十字架上で死したことを。そして、またその十字架は罪を現すといわれていることを。罪。過ち。私の過ちは消えることがない。どんなに贖っても。ロゼは改めて思った。
「かわいそうなマーズ。あなたの人生って何なの?父も母もマーグまでも失って、そして今自分の命を削ってまで戦わなければならいなんて…。神があなたに与えた運命はあまりにも厳しすぎる」
もしもズールがいなければ、もしも地球に送られなければ、今頃あなた達双子の兄弟は仲良く、両親と共にギシン星で暮らしていただろう。もしもマーグが生きていれば、もしもデビルリングさえ無ければ、もしも…。
「マーズ。できることなら、私の命をあげたい…」
それが例え叶わぬ願いだとしても、そう願わずにはいられない。ロゼも跪きマーグに祈った。どうか、マーズを…。
タケルはロゼがギシン星に帰るのを複雑な気持ちで見送っていた。このまま傍に居て貰いたかったが、そうなればロゼもズールとの戦いに巻き込むことになるだろう。確かに一緒に戦うことになれば心強かったが、ロゼの命の保証はない。タケルはこれ以上、自分の大切な人を失うのは耐え切れなかった。父や母、養父そしてマーグ。この上ロゼまで失うことになったら、俺は…。これで良かったんだ、これで。俺のために彼女を死の危険にさらすわけにはいかない。ロゼには生きて欲しい。俺の分そしてマーグの分まで。
「どうしたんだ、ロゼ?そんな悲しい顔はしないでくれ」
タケルは安心させるように明るく言った。だが、彼女の顔から憂いは消えなかった。ふと、タケルは幼い頃に読んだ人魚姫の童話を思い出した。
人魚の姫、海色の髪を真珠より白い肌にまとい海に漂う。
まるで今のロゼだな。憂いを帯びた蒼い瞳、透きとおるような色白の肌、抱きしめれば折れそうな華奢な身体。タケルは彼女の横顔を見つめながらそう思った。
確か人魚姫は愛する王子に会う為に己の声と引き換えにして両足を手に入れたんだっけ。そして、最後は海の泡とかしてしまった。タケルはロゼと人魚姫をなぜだぶらせたのか今は判らなかったが、彼の直感は彼女が己の身体を使って、彼の為に何かをするであろうかということに気づいていたのかもしれない。
「ロゼ!心配はいらない。俺は決してズールなんかに負けやしない」
お互い生きてさえいれば、必ず会える。そうだ、俺は必ず生き抜いてみせる。俺自身のためにもそして君のためにも。
「マーズ」
私はあなたに何もしてあげられない、何も。あなたやマーグに命を助けられたというのに。マーグばかりかあなたまで助けられないなんて。
マーズの決意は固かった。できれば、自分と一緒にギシン星に連れて帰りたかったが、それは不可能であった。ロゼはひっそりと己の無力さと非力さを噛み締めながら、ギシン星へ戻っていった。
ギシン星での任務の間を縫って、ロゼは一人でマーグが呼びかける「灼熱の炎が空を焦がす星」を探していた。地球でマーズの手助けができない以上、彼女にできるのはこれくらいのことだった。ズールが出現する太陽系のポイントとは何の因果関係もなさそうだった。
あとは、自分で実際宇宙を探すしかない。
「灼熱の炎が空を焦がす星」このあまりにも漠然で観念的な言葉だけを頼りに、広い宇宙を探すのは無謀であった。しかし、こうしている間にも、マーズは、彼は、刻一刻命を縮めているのだ。
早く、みつけなくては。早く!
<ロゼ、君の力を借りたい…>
突然、闇の奥から一条の閃光が貫いてくる。避けることさえできず、柔らかく暖かい光に宇宙船ごと身体を包みこまれた。何かが心の中に身体に融けこんでくる。誰かが私と一つになろうとしている。私がワタシデナクナッテイク、ソコニイルノハダレ?でも、嫌じゃない。いえ、むしろこうなる事を望んでいる。私、知ってる。これは。
そう、私達は知っている。
<マーズを救ってくれ…マーズを!>
今、何をなすべきかを。
and MenuetsU
タケルは疲れきっていた。自分の死を間近に感じながら、なお己の命を削りながら闘うにも限界だった。
ただひたすら戦い抜いてきた。何のために?かつて自分がロゼに問いかけた疑問が自分に舞い戻ってきた。
俺のためのもう一つの人生。
名もない星に生まれ、平和に暮らしたかった。マーグとともに。
どうしてこんな平凡でささやかな願いすら叶えられないんだろう?俺には不相応なのか?願ってはいけないことなのか?人並みの幸せでさえ…。
戦いを離れ街並みにでれば、そこにいるのはごく普通に生きる人々。買い物や食事を楽しみ、あるいは祈り、語らい、愛を確かめ合う人々。無心に遊ぶ子供ら。自分が今、恐らく未来においてさえできないことを普通におくる人々。
力を持たなければ、地球に送り込まれなければ、俺はきっとこんな戦いまみれな人生を送らなかっただろう。それともこの名前のせいなのか?
マーズ、軍神、武神の名。その名はデイモス(恐怖)、ポポス(怖れ)、ケーレス(死神)を従者とし、畏怖と残酷によって語られ、血を生贄とし、戦場で崇め奉られる神。
軍神にしては、えらく情けないよな。死を恐れるなんて…。でも、俺は神なんかじゃない!一人の人間なんだ。ちっぽけな存在なんだ。不死身でも永久の命を持つものではないんだ。ただの人間なんだ。
だが、それももう終わる。俺はもうすぐ死んでしまうんだ。まもなく無に帰すだろう。もう、二度とこの光溢れる世界を見ることができなくなる。そして、俺の大事な人と二度と会う事ができなくなる。
誰か俺のために悲しんでくれるだろうか?誰か俺のために泣いてくれるだろうか?
Gigue
ロミオ 俺の名を呼んでいるのは、俺の魂、あの人だ。
−ロミオとジュリエットから−
「どうせ、一度は死ぬ気になったんだ。最後まで花を持たせてくれよな。正直言って死ぬのは怖いけどさ。俺一人の命で地球を救えたら、なんてね」
「バカヤロウガ…!」
彼の友が自分の命を賭けて彼を救おうとした。タケルには衝撃だった。それは今の彼には考えられないことであった。死ぬのが怖い。皆そうだ。でも、ナオトは己の命を賭けて俺を地球を助けようとした。
なぜだ?どうしてそんな事ができる?
「マーズ。良い友をもったな。これが私からのバースディープレゼントだ」
突然、薔薇の騎士が光とともに表われ、友を救ってくれた。
薔薇の騎士とは誰なんだろう?俺の危機にいつも現れ,助けてくれる。
薔薇の騎士、白い甲冑に全身を包み、生身といえば口元しか伺いしれない。その姿は男のようでもあり女のようでもある。謎の人物。宇宙サーフボードを巧みに操り、光の剣を携えている。
そして、彼は薔薇の騎士の正体を知ることになった。その真相に哀しい事実があったとしても、彼は知らなければならなかった。薔薇の騎士は誰なのか、何のために、誰のために現れたのかを。
かろうじて敵を殲滅したが、気力に体力が追い付けず、タケルは意識を失った。それを合図とするかのように、彼の僕たる六神体はそれぞれに分散し、主を護るかのように海辺に降臨した。
水平線に沈む夕陽が一日の終りを示している。まるで今のタケルのように、消えていく命。終りいく命。力尽きたタケルが海岸に横たわっていた。
「マーズ、しっかりしろ」
薔薇の騎士が夕陽を背にし、タケルに近づいてきた。
ようやくその声に目覚めたタケルは重い身体を引きずるようにして、身を起こした。
「君は一対誰だ?」
絞り出すように問いかけるタケルのそれに薔薇の騎士は答えず、ただ黙ってタケルを見つめるだけだった。
俺をいつも助けてくれるあなたは誰なんだ?何で俺を助ける?君は一対?
その時、優美そのものの姿で佇む薔薇の騎士が急に苦しみ始めた。
「鎮まれ!肉体を失いし亡者ども!鎮まれ!」
ズールの声を聞いたような気がした。苦悶の声をあげ、身悶えしている薔薇の騎士が一瞬マーグのその姿と重なったと同時に力尽きて倒れた。
「薔薇の騎士?」
「マーズ。一刻も早く灼熱の炎が空を焦がす星へ…一刻も早く…」
そう言い遺すとその姿が光り始めた。その指先、つま先から光が消えていくと同時にその身を覆う甲冑も消えていき、細い女性の指先が、そして最後にその顔を覆い隠していたマスクが消えた時、彼の見知った顔が現れた。
「ロゼ?」
どうして、ロゼが?
「ロゼじゃないか!?」
どうして、君がここにいるんだ?
あまりにも不測な事態に混乱しつつも、タケルは駆け寄っていった。ロゼが薔薇の騎士が倒れた姿そのままに倒れている。タケルが思わず発した大声にも気づかない。ただ、打ち寄せる波音だけが辺りに規則正しく響いている。今この世に存在しているのが、彼と彼女と彼の僕たる六神体だけのようだった。
「ロゼ、しっかりしろ!」
ロゼを抱き起こしたタケルは、その身の冷たさに驚くとともに不安にかられた。もし、このまま目が覚めなかったら?
「マーズ?」
ようやく、彼の声が彼女に届いたのだろう。その瞳に力は無かったが、彼を見つめていた。
「しっかりするんだ!ロゼ」
タケルは安堵した。訊きたいことがたくさんある。でも、なにから訊けば?
「ロゼ。君が薔薇の騎士だったのか?」
「薔薇の騎士?私は何も…」
怪訝そうにロゼが答える。彼女も混乱しているようだった。なぜ、地球に自分がいるのか判っていないようだった。
「何も憶えてないのか?」
タケルは少々がっかりした。何か君が知っていると思ったのに。
瞳がそうだと答えていた。ふと、彼女が何かを思いだすようにタケルからその瞳をそらした。
<ロゼ…。すまない。こうするしか方法がなかった>
光の中、嘗てマーグの幻影と出会った姿そのままにマーグがそこにいた。その端正な横顔が悲しそうに見えた。前にも同じような彼の横顔をよく見ていた。あれはいつだったろう? その度にその美しさに痛みをおぼえたものだ。でも、今なら判る。あれは彼の美しさだけではない。彼が持つ哀しい運命、叶えられない望み、在るはずだった未来、それらが失われてしまう予感からだったのだ。
そう、そしてそれを奪ってしまったのは、私。この私。
<マーグ。私は…あなたに謝ってもらう資格なんてない。いえ、むしろ謝るのは私の方なの。私のせいで、あなたを…>
<ロゼ。いつまで自分を責める気なんだ?>
相変わらずマーグは優しい。微笑みを浮かべ、まるで小さな子のいたずらを叱るような口調でロゼに語りかけている。
<君は相変わらず、自分には厳しいんだね。それが君の良さなんだろうけど。でも、あまり自分を傷つけてはいけない。私は君に逢えて良かったと思っている。マーズも同じだ。確かに君は過ちを犯した。しかしこの世の中に過ちを犯さない人がいるだろうか?>
<でも、マーグ…>
<良い子だから、聞くんだ。ロゼ>
マーグが彼女の頬に優しく触れながら言った。
<勿論、そんな人間など存在しない。過ちは償われ、そして償われない過ちなどこの世には存在しない。ロゼ。君の過ちは君自身で償い、そして許されるべきものなのだ。誰もそれについて責めはしない>
ロゼは何も言えなかった。マーグは私を許してくれている。だけど…。
<現にマーズは君を許しているだろう?君さえその気になれば、マーズは君を受け入れる。私には判る。私達は元は同じ命。一つの命を二つに別けあって生きてきた>
<マーグ>
<それが今ひとつになったにすぎない。私達はお互いがマーズでありマーグである。マーズの目に映るもの全てが私の目に映り、私の思いがマーズの思いなのだ>
マーグがふと心配そうに眉をひそめた。
<ロゼ。それとも私たちの思いが君には、迷惑だったのだろうか?>
<迷惑だなんて、そんな…そんなことない!>
マーグが嬉しそうに微笑んだ。見るものすべてを惹きつけ、虜にする笑顔。
<ロゼ。私たちには君が必要だ。今までもそうだったし、これからもそうだ。さあ、始めようか>
彼らには今、何をすべきか判っていた。そこには憎しみも悲しみもなく、ただ一つの信念と思いがあった。
<マーズを助けるために>
「今、マーグに会っていたような気がする…」
ロゼが遠い空を見つめて囁いた。確かに彼女の身体からはマーグの魂の残り香が感じられた。
「マーズ。一刻も早く灼熱の炎が空を焦がす星へ…一刻も早く…」
薔薇の騎士はマーグと同じ言葉を言い遺した。恐らく、もう二度と薔薇の騎士は俺の前には現れないだろう。己が正体を知られてしまったからには。
みんな俺のために…。
俺は今まで自分一人の力で、地球を、皆を、守っているのだと思っていた。だが、それはとんだ思い上がり、自惚れだった。俺は、今までたくさんの人に支えられ助けられてきたんだ。だから今まで生き延びてこられたんだ。そうでなければ、とっくに死んでいただろう。なんてオオバカだったんだろう。そんな簡単なことに気づかなかったなんて!
「そうか…マーグが君の身体をかりて俺を助けてくれてたんだ」
マーグとロゼ。自分の最も大切な二人が、死に行く俺を助けてくれた。
特にロゼはその身体に大きな負担を負っただろう。彼の生まれ故郷であるギシン星から地球への気が遠くなる距離を瞬時に移動し、超能力を駆使し戦った。
―ああ。王子さまを死なせてはいけない!どうしても死なせてはならない!そう思うと、お姫さまは、自分の身の危険も忘れて、海の上をただよっている材木や板のあいだをかきわけて、王子のほうへおよいでいきました。―
さながら人魚の姫のように。己の身の危険もかえりみず。
「マーズ」
ロゼはタケルの姿を見て心配になった。いつもより儚げに見える、名前を呼ばなければ、
まるで消えていってしまうような。タケルは自分の腕にあるロゼを抱き上げた。
終りの時が、最後の時が近づいてきている。
すべてを無に帰すか、あるいは生き残るか。そして俺を支えるたくさんの人々の思いを無駄にするかどうかも。
それはすべて俺次第だ。俺にできるだろうか?
今まで、一番大切なことに気づかなかった俺に?でもようやく気づいた。死を目の前にしてやっと。
俺はまだ生きている。まだ負けたわけではない。それに死すら俺たち兄弟を別つことが出来なかった。たとえ死が生者と死者とを別つとしても、魂は不変なものだから、それを宿す人の心と思いとともに生き続け、受け継げられるものだから。
抱き上げた彼女の身体の重みが、彼に今生きているという実感を湧かせた。
もう二度と俺は一番大事なものをどんなことがあっても俺の腕から手放さないだろう。例えどんなに見苦しくても、身勝手だと言われようとも。
すべてが今から始まる。
ロゼにも判っていた。マーズの命の炎が今、燃え尽きようとしていることを。彼に残された時間はあと僅かだということも。
しかし、以前の彼と違うことには気づいていなかった。
ようやく、彼が自分の魂の半身に気がついたことを、それが自分だということも。
自分の存在が彼にとってかけがえのないものになっていることを。
炎が燃え尽きるように夕陽が海に呑みこまれていく。そして音もなく夜の帳が密やかに辺りを覆うだろう。すべての人々の上に、そして若い彼ら一対の上にも。
ROSEV THE END
皆様、読了お疲れ様でした。
ようやく終わることができました。
突然、頭にふっとひらめいた直感、「そうだ!GMのパロディ小説書こう」
その本能の趣くままに書き始めました。だから、書いていて私的にはものすごく楽しかったです。ほぼ、野生の煩悩本能のままに書き上げました。だが、しかし、Vは今までの映像台詞先行型の反省を含めて、かなり描写等にも力をいれてみたつもりです。題名、3部作構成、最初の始まりは奴隷惑星の回からで運命のバラの騎士で終わるというのも最初の直感のままです。
GMの本放送時から何か書きたいとは思っていましたが、中々書けずに、今日やっと形にすることができました。当時は最初の一言が書ければ、書けるのにと思っていました。それが約20年後の今、やっと書けたとは。年月が経って始めて、以前に出来なかったことが出来るようになる(反対のことも多いですが)。案外歳をとるのも悪くないかもしれませんね。一応このシリーズは本編を基にしてありますが、忠実に再現しているのではなく、私という個人の考えで創作補完してあります。それとVに出てきたジュリエットやロミオの台詞はシェークスピアの「ロミオとジュリエット」から、アンデルセンの「人魚の姫」から一部抜粋してあります。これもTVシリーズ本編には関係ありません。
実はVの製作中に急に「ロミオとジュリエット」を読みたくなり、文庫本を買って読むとあのVの冒頭の台詞があったわけです。映画等で筋は知っていますが、実際文章を読むのは初めてで、このシリーズのテーマだと思い、勝手ながら使わせて頂きました。もっと早く気づけば、Tの冒頭にもってきたのですが…。
皆様の感想等を頂けると、とてもありがたいです。
最後になりましたが、管理人のきり様には、大変感謝しております。From ゼーロン
GMって超能力&ロボットものなんですけど、
きり的に何よりも魅力だったのは人間ドラマの部分でした。今回ゼーロンさんの3部作をこのようにして掲載させて頂いたのですが、
「我が人生に一片の悔いなし」って感じです。
タケロゼのこんなラブストーリィを読めるだなんて、想像もしておりませんでした。
もう編集中にやにやしっぱなし。ゼーロンさん、お疲れさま。ありがとうございました。
きり
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