everything3 ゆみ58さま

 

 

everything 3

ゆみ58さま 


 

 

 

 その日のクラッシャー隊の定例ミーティングは、大塚長官とロゼを交えて行われていた。
 パトロールや点検整備の引き継ぎなど事務的報告が終わった後、長官が大きく咳払いをし、あらたまった調子で発言した。
 
「諸君、かねてから各方面と調整を重ねてきた計画がこの度まとまった。」
 
 少し緊張した面持ちでクラッシャーのメンバーは聞き入っていた。
 
「クラッシャー隊員明神タケルを正式にギシン星への親善大使として任命する。そして、ここにいるロゼとともに一週間後にギシン星へむけて出発してもらう。赴任期間は2年だ。」
 
 それは非公式ながらも以前から内々で進められていた計画であったので、だれも驚く者はなかったが、ケンジがひとつ質問した。
 
「一週間後とはえらく急ですが、何か都合があるのでしょうか?」
 
 ひとつ咳払いをして大塚がこたえる。
 
「まあ、都合といえば、お偉方の都合ということじゃな。どこかの国の選挙の日程やら、株価の調整やら・・・。まあ、それほどにこのプロジェクトは地球規模で政治経済もろもろに絶大な影響力を持つということだ。くれぐれも準備等滞りなくがんばってくれたまえ。以上、解散。」
 
 退室する長官を敬礼で見送った後、はじめに口を開いたのはナオトだった。
 
「やれやれ、やっと平和がもどったとおもったら、もう権力争いと金儲けかよ。」
 
 目元に少し笑みをうかべながらケンジがそれにこたえる。
 
「それは、仕方のないことだ、というより国家の維持というのはそういうものなんだよ。それに力を向けられるというのは平和な状況のひとつの現れということだ。まあ、ひとつ 間違えればまたそれが国家間の争いを生むのだがな。」
 
 クラッシャー隊隊長たるケンジは常に公正に、そして職業軍人としての己の立場をわきまえて物事を把握し行動するようにつとめていた。
 若いクラッシャーのメンバーにとっては、融通がきかないと歯がゆく思うこともあっが、それでも彼の実直さを皆が尊敬していた。
 
「そうね、私たちは私たちの任務を全力でやり遂げなくっちゃね。それと、なにより、タケル、おめでとう。とても重大な使命だけれど、あなたなら、いえ、あなた達ならきっと立派にできるわ。」
 
 ミカはタケルとロゼを見つめてそう言った。
 
「ありがとう。ミカ。」タケルは感謝の言葉を述べながら、ミカにはいつも助けられてきたな、とこれまでのいろいろな場面をふりかえる。
 今回の親善大使としての件も、100%地球の全ての人々がタケルを信頼し、期待しているとはもちろん思っていなかった。
 
 ズールの出現以降、タケルの存在を否定し、厄介払いしようとする人々はたくさんいた。
 とくにマルメロ星との事変では、その反タケル派ともいえる勢力は、地球防衛軍内部においても多数を極め、彼は苦境にあえぐこととなったのだ。
 再三の軍法会議、追放、またその確執を敵に利用され危機に瀕したこともあった。
 さすがに地球でのズールとの最終決戦においては、ズールを倒すという点で、タケルやゴッドマーズを否定する人たちはいなかったが、それでも、喉元過ぎればなんとやら、である。
 平和が取り戻された今、またタケルの存在や過去の行動についての論議が再燃しないとも限らない。
 
 地球上にはいろいろな考え方の人々が存在し、中には武力や人を傷つけることによって自らの主張を広く知らしめたいと思う輩もいる。
 そのために今でも、タケルの母静子は明神博士の残した家には戻らず、ここバトルキャンプで暮らしている。
 彼女一人をあの閑静な家においておくのは治安上良くないと誰もが思っていた。
 地球を救った英雄でありながら、地球を危機にさらした危険人物。
 
 いろいろな意見をひとまとめにしてしまうと、彼は非常に複雑な立場にあるといえた。
 親善大使としてのこのたびの派遣は「厄介払い」とはいかないまでも、よりよい位置づけて「ほとぼりをさます」意味が多分に含まれているのだということは、タケルにも分かっていた。
 しかし、人々の考え方や自分への見解がどうということより、タケルにとってこの任務はぜひ自分がやってみたい、そして、自分がやるべき仕事であると以前より心の中で望んでいたものだった。
 それはまた、生みの親たるイデアが彼に託した希望でもあった。
 できる限りのことをやってみよう、とタケルは決意を新たにした。

 

 

 

 

 

 限られた日程内での過密スケジュールの合間をぬって、タケルと母静子そしてロゼの三人は明神家にきていた。
 亡き養父の墓参りがしたいと、タケルが大塚長官に強く願い、出発を明日に控えてようやくとれた貴重な時間であった。
 むろん母静子とは、定期的にこの家と墓の手入れのために訪れてはいたのだが、しばらくこの地を遠く離れるとなるとやはりここへの愛着を感じずにはいられない。
 そして、今や彼のかけがえのない存在となった女性に自分の育った場所を見せたいという思いもあった。
 
 自分がいかに幸福な少年時代を過ごしてきたか、どれほどこの養父母に愛されて育ったのか、それを彼女に伝えたかったのだ。
 この家に未だ残る生活のかおりや、飾られた家族の写真の数々。
 それらをみれば彼女ほどの超能力者でなくとも、ここが幸せに包まれた家族のすみかであったことはみてとれたであろう。
 
「さあ、お茶がはいりましたよ。」
 
 静子が入れた紅茶や手作りのクッキーの味はバトルキャンプでもなじみのものであったが、海を遠く見下ろすこのリビングで口にすると、さらに絶品であった。
 この人の母としての愛が、タケルという人をつくったのだと、ロゼはあらためて感じていた。
 母の愛が地球を救った、というのは決して過言ではないというのは、ロゼだけでなく、この明神親子を知る誰もが思うことであった。
 
「母さん、またいろいろ心配するんだろうけど、今度は大丈夫だから。もうズールはいないんだ。」
 
 ふっとほほえみながらタケルに向ける静子の瞳は限りなく優しい。
 彼女はカップをソーサーに戻しながらこう言った。
 
「タケル。親というのはいつまでも子供のことを心配するものなのよ。こんなに大きくて立派になったのに、まだよちよち歩きのあなたを心配していたのと同じよ。おかしなものね。」
 
 長身の静子を今では頭一つ以上上回る息子をながめながら、彼女は朗らかな笑い声をたてる。
 
「まあ、今回はロゼも一緒だから、ちゃんとご飯を食べてるかしら、ちゃんとお布団をかぶってるかしら、っていう心配はしなくてすみそうだわ。」
 
 母のさりげない一言にタケルは非常にどきりとしたが、それを隠すように焼きたてのクッキーをほおばり、その味わいを大いにほめた。
 母さんこそ超能力者じゃないのか、と半分本気で考えながら。

 

 

 

 

 

 三人で過ごした楽しい時間はあっという間に過ぎ、もう日が暮れかけていた。
 夕刻の定時ミーティングまでにはバトルキャンプに戻らねばならない。
 タケルは海を望む丘にたつ養父の墓に花を供え、手を合わせた。
 すぐ後ろに控えたロゼもそれにならう。
 
「父さん、いってくるよ。」
 
 しばし目を閉じて祈るタケルの横から、静子がそっと声をかけた。
 
「お父様はきっとよろこんでいらっしゃるわ。お父様があなたをクラッシャーに入れたのも、こういう日が来ることをきっと望んでいらっしゃったからだと思うの。」
 
 故人の姿をその墓標に映して見ているかのようにして静子は言葉を続けた。
 
「あの日、明神礁で泣いていた赤ちゃん。子供に恵まれなかった私たちにとっては、まさに天からの授かりものだった。私たちはタケルと過ごせる幸福を毎日感謝していたわ。その何よりも大切なあなたをお父様は、わざわざ友人の大塚長官にお願いしてクラッシャーに入隊させたのよ。危険を伴う宇宙開発と防衛が任務だなんて、母さんは気が気じゃなかったわ。もちろん、ズールが攻めてくるなんて思ってもみなかったけれど・・・。けれどきっとお父様は科学者として、あなたの生い立ちとそのあなたがとるべき道を見いだしてらっしゃったのだと思うの。あなたの生みのお父様がそうであったのと同じようにね。」
 
 タケルは胸元のペンダントを制服越しにさぐる。
 
「母さん、俺の生みの両親のことはすべてマーグに教わった。俺は、俺を生んでくれた両親にとても感謝しているよ。けれど、それでも俺にとって父さんは父さんで、母さんは母さんなんだよ。」
「タケル・・・。」
「これからは、宇宙開発もどんどん進んでいく。俺はギシン星や、地球がこれから新しく出会う星々と地球との架け橋になりたいと思っている。だから、地球を離れることも多くなると思うよ。けれど、俺は必ずここに帰ってくる。ここは誰がなんと言おうと俺の故郷で、何よりも母さんが待っていてくれるんだから。」
 
 タケルは静子の肩にそっと手をかけた。
 
「ありがとう、タケル。」
 
 静子は一筋流れ落ちた涙をそっと拭った。
 
「あなたの人生はこれから本当に始まるのよ。体には気をつけて、無茶はくれぐれもしないでね。」
「ああ。」タケルの微笑は穏やかで、それでいて決意と情熱に満ちあふれていた。
 
 彼らはもういちど明神博士の墓にしばしの別れを告げた。
 丘の下に止めた車に向かって歩き出す三つの影は長く伸び、遠く広がる海はオレンジ色の輝きをちりばめつつあった。

 

 

10

 

 

 旅立ちの日は好天に恵まれた。
 
 抜けるような青空のところどころに、薄く小さな雲が浮かび、その雲の白さがさらに空の青さを強調していた。
 陽光を反射して輝くロゼの宇宙船に、最終チェックを終えて様々な物資が積み込まれていた。
 その作業をバトルキャンプの司令室から見下ろしながらクラッシャーのメンバーたちはひとときの談笑を楽しんでいた。
 
「タケルさん、気をつけて行ってきてね。こっちのことは心配しなくていいよ、なんたってこの僕がいるんだから。」
 
 ナミダの屈託のない笑顔は、いつものように皆の雰囲気を和らげてくれる。
 
「おいおい、この僕だから心配なんじゃないの?」アキラがすかさず突っ込みを入れる。
「違いねえや。」ナオトはクラッシャー隊の漫才コンビにさらに合いの手を付け加えたあと、少し真剣な面持ちでタケルに問いかけた。
 
「しかし、六神ロボをおいていっちまって本当にいいのかよ。」
「ああ。大丈夫だ。今回の目的は親善なんだ。いくら俺の守護神だっていっても武器ととらえられかねないし、それに万が一のときはすぐに俺のところに飛んできてくれるからな。」
 
 タケルの自信に満ちた声と表情は、皆の心の底にわだかまっていた小さな不安を取り払ってくれた。
 
「それに今度は別の守護神がついていてくれるんだものね。女神様が。」
 
 ミカは、そういいながらロゼにウインクした。
 
「えっ?」と言ったきりロゼは白磁のように白く透き通る頬を赤く染める。
「あちゃー。やっぱ、お安くないや。」アキラの言葉に皆の笑い声とはやしたてが続く。
 
 ナミダの「タケルさんはロゼさんの部屋で良いことをしていたらしい」発言は、速攻でアキラからナオトに伝えられていたが、それについては、彼らが他の誰かに言いふらすようなことはなかった。
 ひがんでいるととられても癪だという気持ちも少しあったが、まだ発展途上であろう二人の恋を茶化さずそっとしておいてやろうと思ったのである。
 
 
 
 他愛のないいくつかの会話が続いた後、搭乗開始指示のアナウンスが司令室に流れた。
 
「じゃ。いってきます。」
 
 タケルとロゼはクラッシャー隊のメンバーと笑顔で握手を交わしていった。
 続いて、少しだけ瞳を潤ませた明神夫人、最後に大塚長官に手をさしのべる。
 長官と握手をしながら発したタケルの一言は一瞬皆をはっとさせた。
 
「母を頼みます。」
 
 その言葉がどれほどの意味を含んでいるのか皆は個々にいろいろと考えをめぐらせたが、誰にもそれは分からなかった。
 その雰囲気を知ってか知らずか、大塚長官は大きく咳払いをして、トレードマークの口ひげを探った後、太い声を響かせた。
 
「心配せずとも良い、タケル。なにしろこのバトルキャンプは万全の警備体制にある。何よりこのワシがおるのだからして・・・。」
「長官、それじゃさっきのナミダといっしょですよ。」
 
 自らの胸をドンと叩く長官に、アキラが絶妙のタイミングでこたえ、司令室は皆の大きな笑い声につつまれた。
 
 
 
 ギシン星の最新技術を駆使して作られた小型宇宙船は、宇宙へ旅立つにも特別なカタパルトなどを必要としない。
 ゆっくりと垂直離陸を開始し、高度を増してゆく。
 これらの技術もこれからの親善や外交努力によって地球にもたらされてゆくであろう。
 そして地球の人々の宇宙への進出は飛躍的にすすむであろう。
 それが良いことばかりをもたらすわけではないかもしれない。
 だがもしも、地球が危機に直面するようなことがあれば、自分はまたあの六体の守護神と共に全力でこの星を守るであろう。
 いや、地球だけではない、すべての星の人々の和平のために自分はこの一生を捧げるであろう。
 タケルは宇宙船の窓から眼下に広がる故郷を見据えた。
 バトルキャンプを囲む青い海と緑の山々はみるみるうちに小さく遠ざかり、まもなく無数の星々の海が目前に広がる。
 
 旅立ち。
 これが自分の本当の旅立ちなのだ。
 
 タケルは己の体の芯から指先までに満ちる強大なパワーを感じていた。
 自らの固い決意。希望。自分を支えてくれる人たちの存在。
 それらが渾然一体となってこんなにも大きな力を湧き出させてくれているのだ。
 そしてなによりも・・・。
 
 彼は星々の海から、隣の操縦席に視線を移した。
 愛しいひと。
 彼女も彼の瞳を見つめていた。
 二人は同時に手を伸ばし、固く互いの手を握りしめ、笑みを浮かべた。
 それは幾多の苦難を乗り越え、新たな希望と誓いで心を満たした者だけが浮かべることのできる笑顔であった。
 
 このときのお互いの笑顔を二人は一生忘れることはないであろう。
 そして彼らは行く手にひろがる宇宙をみつめた。
 そのとき、無数に散らばる星々の煌めきに、彼らにとって、もう一人のかけがえのない人の姿が映しだされた。
 軽やかに飛びまわる小鳥を指にとめ、その美しい青年は、彼らと同じようにほほえんでいた。
 彼らの前途を祝福するように。
 
 そして、いつでも二人を見守っているよと、優しく包み込むように・・・。

 

 

 


「everything」は拙宅では今までになくうふふーなお話でしたので、
初めに警告文をつけさせていただきましたが、如何でしたでしょうか?
タケロゼだけでなく「兄ロゼ」が前提としてある、しかも「精神的3P」!?ということで
ゆみ58さんときりはふたりして「これは警告文がいりますよねぇ」と
同意し合ったのでした。
 
最初に読ませていただいたときはもー心臓ばっくばくで、
ロゼの告白とその生き様に衝撃を受け、
支配者達が「女」を道具としていた卑劣さに憤り、
何よりもマーグとロゼの哀しい繋がり、兄の優しさ、
タケルとロゼの恋の有様に、泣かずにはおれませんでした。

ゆみ58さんにとっては初めての執筆だったそうですが、
とてもそうは思えないほどしっかりした文章で、
読ませて頂けて本当に嬉しかったです。
ありがとうございました。
 
2002.5.23 きり

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